タピオカがたいへんなブームです。
それに伴い、タピオカについて取り扱ったコラムも増えているのではないでしょうか?この記事もその一環です。
ところで、このタピオカブームは、一体、私たちが住む世界の何を表象しているのでしょうか?
「マクドナルドは何を売っているのか?」「スシローには社会のすべてが詰まっている」など、その手のビジネスコラムを書くのがB級グルメそのものよりも大好きな筆者が、タピオカの表象についてみていきます。
スイーツブームの興り
私は現在、42歳でもうすっかり大人なのですが、私が学生だった25年前にも、現在のタピオカブームに相当するスイーツブームはありました。スイーツは、高校生を中心として、若い男性も巻き込みながら、社会現象を起こしていたのです。
私が中学生だった80年代はティラミス、高校生だった90年代はナタデココ、二十歳だった90年代終わりはベルギーワッフル、ゼロ年代になってマカロン、生キャラメル、かき氷、10年代はパンケーキ。そして、平成の終わりから令和になって、一気にタピオカが盛り上がっています。
スイーツブームは、平成とともに、日本中を席巻したのです。その背景には、企業とメディアの商品開発とマーケティングが隠されています。たとえば、ティラミスとナタデココは、ファミレスの『デニーズ』が海外から持ち込んだものでした。それが爆発的に流行ったのは、雑誌がそこに乗っかったからです。
スイーツブームのさきがけとなったティラミスは、昭和が終わった平成元年から2年頃にかけて、メディアが多数取り上げ、(主に女性の)新しい生き方の提案とともに、消費者の内面を刺激したのです。
SNSで勢いよく流行る
現在のタピオカブームと、過去のスイーツブームの大きく違う点は、SNSによってフラットに流行っているかどうかです。それまではあくまで流行といえば人工的なもので、作り出されたものでした。
ティラミスもナタデココもマカロンも、あくまで局所的なブームだったものが、タピオカはさらに爆発的に流行っています。これはスマホで世の中がつながったことによる、拡散力の大きさを意味しています。ただ、世界的ブームというよりはアジアの局所的なブームのようです。
雑誌の権威性が落ちた昨今。インスタグラムがその代替を果たしていることはよく言われます。興味深いのは、雑誌がインスタに変わった今でも、スイーツの店舗そのものは都市部で流行って徐々に地方に来るということです。
たとえば、いまから10年前にパンケーキブームがやってきましたが、私が住む地方都市にパンケーキカフェができたのは5年前です。インスタはもう人気になっていましたから、雑誌よりもネットの勢いは強くなっていました。「なぜ今頃パンケーキが?」と思いながらも、記念に食べてみたものです。
スイーツブームが起こるわけ
そんな薄い話はどこのメディアにも書いてあるので、スイーツとロジスティクス(物流)の話をしましょう。
たとえば、コンビニでフルーツのフェアが行われますよね。私が大好きなのはマンゴーです。プリン、ケーキ、アイスクリーム…。コンビニを通りかかるたびに、つい買ってしまいます。
しかし、その背景には、マンゴーそのものの豊作があることはあまり知られていません。つまり、生産地でマンゴーがたくさん採れた年は、コンビニでマンゴーフェアがおこるのです。おこるというより、人為的に展開されるわけですね。コンビニでマンゴーまつりが行われるという背景は、気象が味方して、マンゴーが豊作だったからという事情があります。
小売は物流とつながっていますから、こうした事情を背景に持つのです。
ナタデココのブームが残したもの
時代を戻して、1990年代を振り返ってみましょう。
1990年代は、昭和が終わり、新しい時代としての平成がスタートしました。そこで生まれたのがナタデココのブームです。海外の珍しいスイーツと、新しい生き方がマッチして、ナタデココは爆発的に流行りました。
日本国内のブームだったのですが、ナタデココの生産地はタイでした。製造工場が次々と立ち上がり、タイの方々はあまりに日本からの発注が次々と来るものですから、利益と私財を投資して、次のナタデココ工場に投資するという現象が起きました。
しかし、ブームは数年で過ぎ去り、残されたのは工場と、ナタデココを現地の方々が作るのに使っていたタライだけだった・・・という話があります。ガランとした工場に、タライだけが残され・・・そんな場面が目に浮かびませんか。
その話から学びがとてもたくさんあります。
ブームを見極めて、旬の終わりかけたタイミングで投資しないことや、全財産を費やしてスイーツを生産するのはあまりにリスクが高すぎるということ。大企業は勝手な振る舞いをして去っていくこと。それらをすべてリスクとして織り込んだ上で、それでもスイーツブームに乗りたいのであれば、これまでのスイーツブームで撤退した人たちがどうなったか、しっかり見極めることなど。経営としても学びがあります。
ビジネスとしてみてみると
主題がどこかにいってしまっているので、後半はタピオカ話をしましょう。
商売としてみたスイーツブームは、ビジネスパーソンなら誰しも理解できます。そして、歴史をみると死屍累々ですから、そこから学習している人も多いのです。今、タピオカ屋も非常に競争が激しく、同時に「ゴールドラッシュで儲かったのはツルハシ売りだった」という逸話の通り、ツルハシを売りたがる人も増えています。
すなわち、タピオカにマイスター制度(認定)を出す企業も現れているということです。タピオカを飲みたがる人、タピオカで儲けたがる人、儲けたがる人で儲けたがる人…。さまざまな思惑が現れ、とうぶんはブームが続きそうです。
そして、都心部で熱が冷めた頃には、地方都市に商材が流れてくることが予想でき、地方都市に住んでいる私は、きっと複雑な気分で「遅れてきたタピオカ」を消化することでしょう。まるでパンケーキのときと同じですね。
飽きない仕掛け
ただ、タピオカブームはこれが初発ではなく、何度か発生しています。令和のタピオカブームが比較的成功している理由は、仕掛けサイドの創意工夫もあると考えられます。なぜなら、ナタデココやティラミスのときのように、スイーツブームは経営サイドもリスクを抱えるからです。
コーヒーのように日常的に、手軽に、そのうち各ファストフードやコンビニやカフェが参入でき、生活の一部になる可能性は十分あります。ただし、タピオカは非常に濃いので、味を変え、ティーの要素を強めることで、なんとかコーヒーブームに飽きた層を取り込もうとしているのがうかがえます。
まるでスターバックスやブルーボトルコーヒーのように、第三の居場所を。そうなるよう、ビジネスサイドも創意工夫を凝らしています。
グローバルにつながっている
タイトルに戻ります。
タピオカが表象しているものは、グローバルの象徴です。
タピオカのみならず、平成から令和にかけて私たちが通り過ぎた各種スイーツの流行は、私たちがもうつながってしまったことを意味しています。
グローバルというと、GAFA※を代表としたグローバル企業が頭に浮かびますが、西も東もすでにつながっており、スイーツはグローバル経済にもう飲み込まれていることの現れなのです。
飲んでいるようで、飲み込まれている
そのグローバル性が、タピオカの表象しているものではないでしょうか。
もう世界はつながってしまいました。タピオカがくっつけてしまったのです。
※GAFA(ガーファ):Google、 Amazon.com,、Facebook,、Apple Inc.の頭文字を取って総称する呼称