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スシローには社会のすべてが詰まっている話

世の中にスシローを愛さない人はいません。

20年以上の間、日本を覆ったデフレは数々の天才経営者を生みました。書き手である私は個人的に、そうしたデフレ系飲食店が非常に好きです。なぜなら、東京で暮らしながらも、裕福ではない期間が長かったため、スシロー、すき家、サイゼリヤ、バーミヤンといった、各種B級グルメ店でちょっと贅沢するのが日々の楽しみだったから。

では、スシローには社会のすべてが詰まっているという話は、どういうことなのでしょうか?今回はみんなが大好きなスシローの話を書きたいと思います。

決算が良好な理由

いきなり決算の話になっちゃいますけど、簡単にいうとスシローは業績が非常に好調のようです。売上は2018年9月期で1,748億円あり、営業利益も117億円ほど。売上も利益も、右肩上がりで伸びていることがわかります。

株式会社 スシローグローバルホールディングス 財務ハイライト

それまで、スシローの売上は年間1,500億円いくかいかないか、ぐらいで数年間横ばいでした。日本中がマーケットなので、理論上は無限に売上を立てられるはずなのに、伸び悩んでいたのです。それが、2018年9月に成長を見せました。では、2018年のスシローに何があったのでしょうか?

考えられるのが、新規出店を精力的に行ったこと、コストカット、そして重要な点として、既存店舗の客単価が上昇したことです。客単価とは、すなわち私たちがスシローでいくらの寿司をとって楽しむか、ということとなります。

データによりますと、2018年を通しての、スシローの客単価は102円。
株式会社 スシローグローバルホールディングス 月次情報

つまりこれは、ひとり12皿食べるとして、100円皿12枚食べて1,200円払っていたのが、100円皿11枚と150円皿1枚を取って1,250円払うか払わないか、というぐらいの数字です。後者なら客単価は104円となります。スシローには、100円皿、150円皿、300円皿があります。お客さんの心の中で「ちょっとだけ贅沢して150円皿を・・・」という心理が働いたものとみられます。これは社会にとってよい兆候ではないでしょうか。

人間の心理をついている

100円皿、150円皿、300円皿という話がでました。

ここには、人間の心理をついたスシローの作戦が隠されています。なぜなら人間は100円、150円、300円と3つの選択肢を出されると、つい真ん中を選択してしまうのです。これを松竹梅の法則といい、妥協効果および極端の回避とも呼ばれることがあります。行動経済学の用語であり、社会科学的な根拠を持っています。

人間はものを買ったり選択したりするとき、相対感で意思決定します。つまり、あれよりは高い、これよりは安いといった相対性のもとで判断しているのです。

「150円の皿は、100円の皿よりも少し贅沢な気分。でも、300円の皿は少し高いかな」

そんな心理が働いて、150円の皿をつい手に取ってしまうのです。
2018年9月は、スシローが真ん中のお皿を180円から150円に価格を引き下げたタイミングと一致します。そして実際に、数字にでました。売上推移に。150円皿がちょいちょい売れているということです。

同時に、この150円皿をスシローがもっとも売りたがっているであろうことも予測できます。やはり1皿100円で2貫では利益が出づらかったものが、1皿に1貫(が多い)で利益率が高く、顧客の心理面で満足度が高くなります。そうでありながらも胃は満腹にならないのでお腹が満たされず次を取ってしまうという仕掛けが施されていることがわかります。つまり、スシローはこの150円皿に今もっとも力をいれているのでしょう。

ここからの学びは大きく、自分でビジネスを展開するときには、3つ選択肢を準備して、真ん中にもっとも売りたいプライシングを持ってきます。

時給が拮抗している

では、なぜ値下げしてまで150円皿を売りたいのでしょうか。背後には売上を拡大せざるを得ない大企業の宿命と同時に、人手不足が考えられます。ようするに働き手が足りていないのです。私が訪れたのは千葉県にあるスシロー幕張店だったのですが、タッチパネルとクイック精算が実施されており、顧客の導線が滞りなく改善されています。

それでも、ご飯を食べている私の隣で店員さんはバタバタし、人手不足がうかがわれます。広い店舗にはいろいろな客層の方が来るでしょうし、空きのお皿も重たいでしょうし、たいへんなお仕事だとはお察しします。(私のようなお客も来ますし)

それでも人を集めるためには、賃上げが避けられないのです。スシロー幕張店の時給は1,000円。これはじきに、1,500円に到達するだろうと予測します。

市場化の象徴

時給の話の続きです。私はB級グルメ店が好きだと冒頭に書きました。食べるだけでなく、そこで働く人たちの時給をさりげなくチェックし、地代家賃を調べて、どの程度の売上があがっているか推測するのが好きなのです。そして、こうしたB級グルメ店のスタッフは、非正規雇用つまりアルバイトであることは周知の事実だろうと思います。

そこで近隣の時給を並べてみましょう。

スシロー幕張店   1,000円
スシロー海浜幕張店 980円
すき家幕張店    1,050円
はま寿司幕張IC店 1,020円

このようにほぼ均衡しています。これが、スシロー幕張店だけ1,200円ではま寿司幕張IC店だけ800円というふうにはならないのです。

たとえば、ご自身が会社を経営することを想像してみてください。コスト積み上げ式で時給を設定するのではないでしょうか。一皿100円、ひとり10皿、200席あって2人組のお客様が20回転、と計算し、1日いくらの売上となるので、そこから家賃と原材料費を引いて時給はいくら…と、原価計算で考えるのではないでしょうか。これがコスト積み上げ式です。

しかし、私が長年、B級グルメ店員の時給を観察したデータベースによりますと、アルバイトの時給は市場によって決まります。

つまり、スシロー幕張店とすき家幕張店の時給は競合しており、オーナーが勝手に自店舗だけ給料を下げて、搾取しようとしても、アルバイトの雇用に限ってはできなくなっているのです。これが市場原理であり、日本において市場原理は敬遠されますが、決して悪い側面ばかりではないということでもあります。

このことからも、日本が取るべき選択肢が見えてくるような気がしませんか?労働市場の規制緩和です。

まとめ

経済が停滞する中、誰でも安さを求めます。しかしスシローをはじめとしたすべての日本企業が人手不足で人員が足りないところからスタートし、賃上げの圧力がかかり値上げで上抜けというループを目指さざるを得ないのです。

これもまた、悪いことではありません。私は個人的に、B級グルメ企業が好きで応援しています。それにデフレが生んだ数々の天才経営者を尊敬していますので、また機会があったらそんな話を書かせてもらいたいなと思っています。