前回は「日本の女性は世界一、男性よりも幸せ」というデータを紹介し、その原因の1つとして「未婚男性の幸福度が低い」ことを指摘しました。
今回は「日本の未婚男性はどうしてそんなにつらいのか?」という点をみていきたいと思います。みなさんの周りにいる未婚男性のことを思い浮かべながら、今後の彼らとの関わり方に役立てていただければと思います。
画像出典元 「世界価値観調査・第6波調査」(2010~2014年)より筆者作成:http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp
(「世界価値観調査」HP)
日本の未婚男性がつらくなる最大の原因は、性役割
日本で、未婚男性がつらくなる最大の原因は、性役割が強いからだと考えています。具体的には、女性が男性に期待することが大きすぎるということです。以下、根拠とデータを紹介します。
日本では意識面では性役割には反対するようになったが、行動面では性役割が強い
「性役割」ときいてピンとこない人も多いかもしれません。たしかに性役割に対する「意識」は弱くなってきました。
「社会階層と社会移動全国調査」(SSM調査)によると、「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という質問に対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した比率は1995年では39.5%だったものが2015年には23.4%となり16.1ポイント減少しました(注1)。
またISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」(2012年)では、同様の質問(「男性の仕事は収入を得ること、女性の仕事は家庭と家族の面倒をみることだ」という質問文)に対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した比率は、日本は調査対象の40か国の中で23位とそう高くありませんでした(注2)。
注1)「社会階層と社会移動全国調査」(SSM調査) 画像出典元:http://www.l.u-tokyo.ac.jp/2015SSM-PJ/
(「2015年社会階層と社会移動(SSM)調査研究会」HP)
注2)ISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」(2012年) 画像出典元:http://www.issp.org/menu-top/home/
(「International Social Survey Programme」HP)
ところが日本は性役割の「行動」が非常に強い国です。
OECDの統計では、日本は「男性の方が女性よりも有償労働(賃金を得る仕事)が多い時間」が先進24か国(調査対象国)の中でトップであり、逆に「女性の方が男性よりも無償労働(家事、育児、介護など)が多い時間」が2位です。
画像出典元 「OECD based on data from National Time Use Surveys」(日本は2016年)より筆者作成: https://www.oecd.org/gender/data/balancingpaidworkunpaidworkandleisure.htm
(OECD「ジェンダー平等」HP)
日本人は意識の上では性役割に反対するようになりましたが、実際は性役割に従った行動をしているのです。
世界一共働きに否定的な日本の女性
日本の女性は共働きに消極的です。
ISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」(2012年)では、「男性も女性も家計のために収入を得るようにしなければならない」という質問があり、それに対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した比率は、日本の女性は調査対象の40か国の中でワーストでした。
毎年のように世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」(男女の平等度を示す指標)で日本が先進国中ワーストに近いということが問題とされ、政府も「女性が輝く」というメッセージを打ち出すなど、女性の社会進出が政治的に正しいものだとして扱われる中、当の女性の意識としては共働きに消極的だというわけです。
画像出典元 ISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」(2012年)より筆者作成:http://www.issp.org/menu-top/home/
(「International Social Survey Programme」HP)
日本ではお金がない男性は結婚ができない
日本のように性役割が強い国では、女性が結婚相手に選ぶときの基準として「経済力」が重視されます。
ISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」(2012年)で、既婚男性と未婚男性の個人年収の差の大きさを先進24か国で比較すると、日本は2位でした。日本では「お金を持っている男性は女性に選ばれやすく既婚になれるが、お金を持っていない男性は女性に選ばれにくく未婚になってしまう」という傾向が世界的に強いということです。
画像出典元 ISSP国際比較調査「家庭と男女の役割」(2012年)より筆者作成:http://www.issp.org/menu-top/home/
(「International Social Survey Programme」HP)
このことを補強する事実として、内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」(2015年)では、未婚者(20~49歳)の「現在結婚していない理由」(単数回答))の「経済的に余裕がないから」と回答した比率が、日本の男性は突出しています。
画像出典元 内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」(2015年)より筆者作成: https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/index.html
(内閣府「平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告」HP)
また国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査・独身者調査」の「独身でいる理由」においても「結婚資金が足りない」と回答した未婚男性(30~39歳)の比率は1997年に16%だったものが2015年には23%と増加しており、このような傾向がこの20年くらいで高まってきたことも確認できます(注3)。
注3)国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査・独身者調査」http://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/shussho-index.html
(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」HP)
日本の男性は女性と結婚したければ、お金を稼がなければならないのです。
”稼げる男性”になるハードルが高くなった
今の時代、女性が期待するような経済力を手にするためのハードルは、昔と比べて高くなっています。1990年代にバブルが弾け急激に低成長時代に入った反動で若者の非正規雇用化や給与の抑制が進んだからです。
総務省「労働力調査」によると、男性25~34歳の非正規雇用者比率は、2002年に9.4%だったものが2017年には15.3%まで増加しています(注4)。
また、国税庁「民間給与実態統計調査」によると男性30~34歳の平均年収は1997年に450万円だったものが2017年には407万円にまで減少しています(注5)。一方、その間、女性は大学進学率を高めるなど社会進出を進め、男女の賃金格差が縮小しています。
注4)総務省「労働力調査」(年齢階級(10歳階級)雇用形態別雇用者数):https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html
(総務省統計局「労働力調査 長期時系列データ」HP)
注5)国税庁「民間給与実態統計調査」(1年勤続者の年齢階層別平均給与(男女)):https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm
(国税庁「民間給与実態統計調査結果」HP)
女性の学歴や年収が上がっているのに「自分よりも上」の男性を求めてしまうと、応じられる男性の数が少なくなりますし、それでも応じようとする男性にとっては、女性よりもさらにいい大学を出て、いい会社に入らなければならず、より過酷な競争を勝ち抜かなければなりません。
日本の女性は自分からアプローチをしない
「日本では性役割が強い」というのは経済生活の面だけではありません。恋愛においてもそうです。
内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」(2015年)では「相手からアプローチがあれば考える」と回答した比率は、日本の女性が45.0%であり調査対象4か国中トップでした。2位のスウェーデンの女性との差は約10%あり突出しています。
一方、「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」と回答した比率では、日本の男性は25.9%と2位ですが、他の国も20%台に収まっているため、特に低いというものではありません。つまり日本の女性のアプローチの消極性だけが際立っています。
画像出典元 内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」(2015年)より筆者作成 :https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/index.html
(内閣府「平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告」HP)
日本においては男性側から女性に積極的にアプローチしなければ何もはじまらないのです。
女性へのアプローチがセクハラになる時代
近年女性に対するセクハラに対する世間の目は厳しくなっています。このような問題が発生したとき「男性が客観的に何をしたのか」よりも「女性が実際にどう(不快に)感じたのか」ということが尊重されるようになりました。これまでセクハラを我慢してきた女性にとっては歓迎すべき傾向でしょう。
しかし、客観的な基準ではなく主観的な判断が用いられることによって「何がハラスメントになってしまうかがわからない」「自分が不意に加害者になってしまうのでは?」という男性の不安が高まってしまいました。アプローチをすることが求められる男性にとっては、失敗した(セクハラと捉えられてしまった)ときのリスクまで考えなければならなくなったのです(注6)。
注6)御田寺圭「異性と関わりたくない…ハラスメントが拡大する「快適な社会」の代償」(2018年12月):https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58951
ここまでをまとめますと、日本の未婚男性は幸福度が低いです。それは
①バブル後に男性の収入が減少し、逆に女性は学歴や収入を高めたにもかかわらず、「自分以上」の男性を求め続けた
②男性にアプローチを期待しながらも、女性に対するアプローチのコストが高まった
このようなプレッシャーがあるからだと思います。
配偶者のいない男性は孤立しやすい
そんなにつらいのであれば「男性は女性に執着せずに生きていけばよいのでは?」と考える人も多いかと思います。
しかし日本では特に男性が未婚になってしまった場合に孤立する可能性が高まります。
ISSP国際比較調査「社会的ネットワークと社会的資源」(2017年)の「親しい友人と連絡をとる頻度」が「月に1回以上」である比率は、日本の未婚男性(25~54歳)は調査対象国中ワーストです。日本の未婚女性(25~54歳)もワースト2位ですが、男女差をみると男性の方が約20%低いです。
画像出典元 ISSP国際比較調査「社会的ネットワークと社会的資源」(2017年)より筆者作成:http://www.issp.org/menu-top/home/
(「International Social Survey Programme」HP)
親しい友人が少ない日本の男性の場合、配偶者がいなければ孤立しやすいため、恋愛のハードルが高くても簡単にはあきらめにくいでしょう。
女性から逃げ出す男性たち
しかし、近年、未婚の男性が女性から離れていく動きが少しずつ出てきています。
国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査・独身者調査」では「一生結婚するつもりはない」と回答した比率は、男性は1982年の2.3%から2015年の9.4%へと7.1ポイント増加しています。女性は1982年の4.1%から2015年の6.8%へと2.7ポイント増加ですので、女性に比べて男性の方が結婚をあきらめる傾向が強まってきています。
画像出典元 国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査・独身者調査」:http://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/shussho-index.html
(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」HP)
昨年「MGTOW(ミグタウ)」という言葉が話題になりました。「MGTOW」とは「Men Going Their Own Way」の略で「我が道を行く男たち」と訳し「女性との付き合いを極力避ける男たち」のことです。
MGTOWの基本的な考え方は「女性と付き合うのはコスト的にもリスク的にも割が合わない」ということだそうです(注7)。
ここまで確認してきた未婚男性の状況から考えてみると、今の日本で「MGTOW」が関心が集まるのは必然的なことだと思います。
注7)八田真行「女性を避け、社会とも断絶、米国の非モテが起こす「サイレントテロ」:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56526
今こそ女性が男性に手を差し伸べるとき
私はMGTOWのような男性が増えることがよいことだは思っていません。若いときはよくても、年齢を重ね肉体が弱っていくと、支え合っていく相手がいなければ、つらくなってしまうことが想像できるからです。
これは女性も一緒です。既婚女性よりも未婚女性の幸福度は低くなります。「男性に稼いでもらおう」「高年収の男性じゃないと嫌だ」という考え方を冷静に見直し、今こそ女性が男性に手を差し伸べるときではないでしょうか。